東京高等裁判所 昭和50年(う)1507号 判決
被告人 田辺昌俊
〔抄 録〕
よって記録を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて検討すると、原判決が殺人の故意を認定した理由として詳細に判示しているとおり、関係証拠、ことに被告人運転の車両の同乗者杉山雅信、同田邊晴俊、対向車両に乗車していた鈴木一、同桑島薫、同小林正己らの捜査官に対する各供述調書、ならびに実況見分調書二通(昭和四九年一二月二二日付および同月二七日付)を総合すれば、被告人が確定的殺意をもって行動した事実を優に認めることが出来る。すなわち、被告人は原判示米原巡査が自車のステップに足をかけているのを見るや、同巡査を振り落そうと、自車を時速約七〇ないし八〇キロメートルまで加速し、急な蛇行進をくり返したが、振り落すことが出来なかったので、車道中央線を超えて、対向車にすれすれまで接近しようと試み、一旦車道左側に帰ったものの、また車道中央線を越えて、対向車に接近し、遂に自車右側にしがみついていた同巡査の身体を対向車二台に次々と打ち当てさせたこと、ことに本件犯行の際、対向車は引き続いては進行して来ず、途中で列が途切れることもあったのであるが、被告人の車両は、対向車が途切れたときは道路左側に戻り、対向車が接近するとみるや、わざと中央線を越えて対向車にすれすれに近づいて行ったことが認められる。右のような運転の態様からみて、被告人には同巡査を対向車の車体に激突させ、死亡させるについての確定的故意があったとみるのが相当である。
(綿引 石橋 藤野)